エレベーター

　大地震が発生し地域の電力供給が停止する中、高層ビルのエレベーター内で5人が閉じ込められた。

　12時間後…
　各基地局が潰れ携帯電話も使えぬ中、彼らは互いに励まし合い、笑い合い、世間話をし、救助が来るまでの時間を潰した。

　24時間後…
　重度の糖尿を患うAが倒れ、B～Eは顔を引きつらせた。

　36時間後…
　飲料水を携帯していたBがリンチに遭い、C～Eは少しだけ喉を潤した。

　48時間後…
　発狂したCが首を締められ、DとEは一言も喋らなくなった。

　60時間後…
　脱水症状から急性心不全を起こしたDが倒れた。血と死体と糞尿と絶望と闇が充満する密室内で――残されたEは安堵した。心から、安堵した。…見られたくはなかった。見られたくはなかったのだ。私が懐に隠していた、この遺書だけは…。

　彼方から響く救助隊らしき人々の声を聞きながら、思う。
　これでやっと、ちゃんと死ねる……。