ダイブハウス

儂の孫は小さな頃からロックが好きで、将来はバンドマンになるんだと言っておった。
大人になった孫はその夢を叶え、儂をライブハウスに呼び出した。
招いてくれるのは嬉しいがこんなババア、ライブハウスには似つかわしくないだろう…だが絶対に来てくれと言われた手前、行かんわけにもなぁ…
ため息を吐き、重い足を運ぶ。ライブハウスの扉を開く。
途端、痺れる音が儂の耳朶を打った。
うるさいだけのロックじゃない。骨身に染みる本物の音楽だ！
その演奏をしているのは儂の孫。儂は孫の奏でるロックの海へと引きずり込まれた。
荒れ狂う音が儂の身体を揉みくちゃにする。どっぷりと沈み込む。
演奏が終わると浮遊感に包まれる。痺れる音楽はどんな電気マッサージ機よりも強力に感じた。全身が軽くなった気がする。
『まだ潜れるかい、婆さん？』
そう問いかける孫に頷く。海女歴４０年。周りにいる若者より、この音の海を深く長く潜ってやるよ！