映画館でのとある出来事

昔は映画に活動弁士は必須だった。
昔の映画と言えば活動写真。流せるのは映像だけ。そこにはBGMも音声も存在しない。
だからこそ内容を説明する活動弁士は必ず劇場に常駐していた。
映像を見ながら進む解説。それに多くの人が虜となった。テレビなんてない時代の娯楽であった。
しかし映画の機能の進化と共に活動弁士の出番は減る。私もその一人だ。
映画に声が吹き込まれるようになると私達は用済みを言い渡される。
それでも無声映画上映劇場を探し、何とか食つなぐ日々…そんな無理が祟ったのだろう。私の声は出なくなった。
それでも舞台に立つ私。さてどうしようか…と考えていると手元の湯飲みが突然私の声で喋り出したではないか。
どうやらこの湯飲み、付喪神が宿っていたらしく私の助けになろうと声を上げたようだ。
だが、それは逆効果だ。湯飲みでも出来る仕事を人間の私が続ける必要はない。
こうして私の活弁士人生は幕を下ろした。