映画館でのとある出来事

「良ければ、映画を見ていきませんか？」
突発的な大雨に襲われ逃げ込んだ軒下。その家主と思われる老人が私に声をかけてきた。
「この様子だと雨は暫く止みそうにありません。こうなるとお客さんは入らないでしょう…お代は結構です。雨宿りの一時にどうぞご利用下さい」
タダなら…と誘われるがまま劇場へと足を踏み入れた。

映画はもう始まっていた。壮大な海を舞台にしたドキュメンタリー。
台詞はない。登場人物もいない。出てくるのは海の生き物のみ。それを私は食い入るように見てしまった。
普段ならこんな映画、見ようとは絶対に思わない。見たとしても倍速スピードで飛ばしていた。
海の映像がこんなにも面白いと初めて知った。

映画を見終え、外に出る。雨はまだ止んでいなかった。
スマホで時間を確認する。２１２３年４月１９日。
目を疑った。そんなバカな！と。
煙る雨が私の手に触れる。私の手は老人のように皺だらけになった。