映画館でのとある出来事

「ペアシートをお願いします」
高齢の男性はいつものようにそう言って、一人でペアシートへと向かう。
あとで誰か来るのだろうか？違う。男性はいつも最後まで一人で映画を見ている。
広い席を独占したいのだろうか？違う。男性はいつも隣に一人分のスペースを空けている。
だからつい、聞いてしまった。
「儂がペアシートを利用している理由ですか？もしかして、お邪魔でしたか？」
そんな事ありません！と、否定する。
「良かった。実はここ、妻との思い出の場所なんです。妻は映画が好きで、いつもペアシートで一緒に見ていました。その妻が去年他界してしまい、一人で見る映画が寂しくなっていたところ、このペアシートに座ると何故かその寂しさを忘れられたのです。もしかして、妻が近くにいるのかも…そう思うとついペアシートを利用してしまうのです」
はにかむ男性。その後ろで高齢女性の幽霊も同じようにはにかんでいる。
納得の理由だった。