悪性腫瘍愛好者の日常

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 その日も、医師は自宅に肉を持ち帰った。
 執刀を命じられ、患者とヒアリングし、家族に説明し、準備をし、手術をし、成功させ、残務処理し、笑顔で同僚と世間話をする。その間中ずっと…僕は持ち帰る肉のことばかり考えていた。
 無事手に入ったのは術中に切除した悪性腫瘍…赤黒く変色した"それ"を手に、僕は微笑む。
 熱したフライパンに油をひき、ワインで喉を潤してから、癌細胞に犯された大腸をそっと置く。大腸癌特有の斑点模様が熱で弾け、変形した肉が色を変える。匂いは無く、香りも無い、ただ肉質が相当柔らかそうだ。
 皿に並べ、手製のローズマリーソースをかけ、口内へ運び…焼けた癌細胞を丹念に咀嚼する。…うまい。皮膚癌のように硬くなければ、肺癌のような悪臭も皆無だ。患者の健康状態に感謝する。
「次は食道癌か、肝臓癌が食べたいなぁ…赤ワインソースとトリュフソースも作りたい。ああ…膵臓癌、手に入らないかなぁ……」
ホラー
公開:23/04/11 12:03

Sees

ショートショート好き。
得意ジャンルはホラー。
座右の銘は『清く正しくいやらしく』。
好きな書籍は『悪魔の辞典』と『悪魔の寓話』。
制限400字という発想に感銘。
コメントとフォローはできるだけ返します。

楽天ブログにて『株式会社SEES』の名でショートショートと短編小説掲載中。
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さて、今日はどんな事件が起きることやら……。



 

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