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 「今日でお別れだね」
 豪華な晩餐を目の前に、車椅子に乗った彼女は微笑みながらそう言った。

 彼女は今日が最期の日という事を理解しているらしい。頭の良い彼女なら出来そうな事だ。

 「そんな悲しいこと言わないでよ」
 現実から目を背けたい僕は、思わずそう言ってしまった。

 「ふふ、分かってるくせに」
 「うん…でも言うのは自由じゃん?」
 「まあね」

 悲しみを紛らわす為のちょっとしたやり取り。こんな会話が出来るのもこれが最後かと思うと涙が出そうになる。

 「じゃあ、乾杯しようか」
 「そうだね」
 僕は彼女と杯をかわす。

 最期の日、という付加価値が酒をより美味しくさせてきて、とても複雑な気持ちになる。

 彼女の顔もどこか悲しそうだ。



 暫くして、彼女がそっと瞳を閉じた。
 遂に、裁きの時が満ちた。

 ひとつ溜め息を吐き、僕は夢の扉の鍵を開けた。
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公開:23/04/10 00:38

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