消えた先輩

先輩が、消えた。その知らせを受けたとき、まだにわかには信じられなかった。
｢うそだよね？｣
同級生の友達に何度も聞くが、誰もが首を振る。
なんで、先輩は消えてしまったのか。考えればいくつも前兆はあった。突然部活に顔を出さなくなり、下校時間も自分よりずっと早い。顔を合わせる機会がグンと減っていたことに、もっと早く気づければ良かった。
もう悔やんだところで後の祭りだ。先輩は、もう戻ってこない。もう、完全にこの空間から存在を消されてしまった。


ねぇ先輩。尊敬してやまない先輩。先輩たちがいなくなってひと月経ったよ。あの時満開だった桜は、もう桜蕊を降らせているよ。
ちょっとくらい顔を見せてください。泣きながら送られるのが嫌だからって。黙っていなくならないでよ。
先輩が座っていた席は、今は自分が座っているよ。もう先輩の痕跡はない。

先輩が消えた。
3月10日、先輩は私たちだけが知る存在となった。