愛しのあなたへ……

　交際していた女性を殺害し、山中に埋め、その後何食わぬ顔で生活を続けて10年が経とうとしていた。行方不明事件として警察も動いていたが、それも1年で忘れ去られ、彼女の家族も諦めかけていた。"とある事情"から、警察に逮捕されたことはない。
　
　だが――…ひとつ、ひとつだけ悩みがある。
　
　…――携帯電話が鳴る。番号を変えても、鳴る。

『――警察に、捕まらないで。お願い…』
　僕は沈黙する。
　そう。それは僕が殺して埋めた、彼女の声だった。
『…アタシを殺した罪を、償わないで』
　誰が、どこから来る電話なのか? 僕にはわからない。調べる気にもならなかった。
『…償ったら、あっちにいくから、ダメ…絶対、こっちにきて』
　10年、毎日、僕は彼女の声を聞いている。
『…明日、また警察が来るから、気をつけて、ね?』

　電話に出なくても、自首しても、自殺しても、僕の悩みは消えそうにないのだろう…。