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月食を見たいから夜、絶対に起こしてねと娘に言われた。私は分かった約束するよと答えた。
随分と歳を取ってから産まれた娘だ。今もさまざまな問題が山積されている世の中だが、それでも我が国は一応平和な状態なのは誇らしい。戦争を体験している私のような身は、心からそう思う。
私が若い頃月食を見た時は戦時中で、明日をも知れぬ身だった。友人たちと強がっていながら、死にたくはないと内心怯えていた。だが死ぬことが誇りで半ば義務化されていたような時代だった。絶対娘にはそんな思いをしてほしくはない。
娘は生きていれば月食を見る機会はいくらでもあるだろう。約束を破ることになるが寝かせておいてあげよう。
「パパ何で昨日起こしてくれなかったのよ!」
「いやお前が気持ちよさそうに寝ていたし、それに…」
「約束を破るなんて最低よ!パパなんて大嫌い!」
娘はそれ以来私とはほとんど口を利いてくれなくなり、親子間の溝が深まった。
その他
公開:23/04/06 01:05
更新:23/04/06 01:51

ぴろわんこ

少し変わった、ブラックな話が好きです。

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