納幕式

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昔馴染みの映画館が、半世紀の歴史に幕を下ろす。
桜の便りに乗って舞い込んだ納幕式(のうまくしき)のチケット。黒枠に縁どられた銀幕を望む客席には、この映画館と泣き笑いを共にし、夢の時間を旅した映画仲間の懐かしい顔が集っていた。

カチンコの音を合図に式が始まる。
チケットの半券がもぎられ、名残り雪の様にスクリーンへ降る。喜劇、悲劇、ロマンスにホラー、サスペンス。手向けられたリクエストがラストレビューを上映し、客席が興奮に沸いた。
歴代の上映タイトルに続けて、エンドロールに連なる無数の名前。館長以下スタッフの、映写室の、観客の一人ひとりが作ってきた五〇年に思いを馳せる。


「出幕の時間です。最後のコマ送りを」
館内放送がしめやかに別れを告げ、暗転する銀幕から光のフィルムが一斉に飛び立つ。
鳴り響く開演ベル。天を目指して流れゆく一コマに、目を輝かせてスクリーンに見入る、遠い日の僕が確かにいた。
青春
公開:23/04/03 14:44
月の音色 月の文学館 テーマ: 映画館でのとあるできごと

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞

いつも本当にありがとうございます!

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