薔薇色のアンコール
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映画館で窓口係をしていた頃、決まって花束を連れて来る老紳士がいた。
毎回律義に花束の分も券を購入し、二つ並んだ隣の席に花束を座らせて映画を観るのだ。見事な深紅の薔薇で、山高帽にダブルの背広、ステッキ片手の装いも相まって、往年の映画俳優を彷彿とさせる光景だった。
一度だけ、花束連れの理由を尋ねた事がある。
「昔の恋の形見ですよ」
そう言ってはにかむ老紳士に、余計な事を訊いたと思った。かつて愛した人の面影と彼は今も共にいるのだ。老紳士の逢引きはその後も続き、彼の隣にはいつも深紅の薔薇があった。
古い映画の復刻上映が行われた日、いつも通り花束連れで来た老紳士は、手ぶらで映画館を出て行った。
「ついに再会できました。恋が叶ったんです!」
少年の様に頬を染め、足取りも軽く立ち去る彼の、常にない様子が気になり客席を覗く。
セピアに染まるスクリーンで微笑む女優の手に、目にも鮮やかな深紅の薔薇があった。
毎回律義に花束の分も券を購入し、二つ並んだ隣の席に花束を座らせて映画を観るのだ。見事な深紅の薔薇で、山高帽にダブルの背広、ステッキ片手の装いも相まって、往年の映画俳優を彷彿とさせる光景だった。
一度だけ、花束連れの理由を尋ねた事がある。
「昔の恋の形見ですよ」
そう言ってはにかむ老紳士に、余計な事を訊いたと思った。かつて愛した人の面影と彼は今も共にいるのだ。老紳士の逢引きはその後も続き、彼の隣にはいつも深紅の薔薇があった。
古い映画の復刻上映が行われた日、いつも通り花束連れで来た老紳士は、手ぶらで映画館を出て行った。
「ついに再会できました。恋が叶ったんです!」
少年の様に頬を染め、足取りも軽く立ち去る彼の、常にない様子が気になり客席を覗く。
セピアに染まるスクリーンで微笑む女優の手に、目にも鮮やかな深紅の薔薇があった。
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公開:23/04/03 14:44
月の音色
月の文学館
テーマ:映画館でのとある出来事
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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