春の幽霊

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 ある春の夜の事だ。

 深夜残業の帰り、ポツンと灯る街灯の下に女がいた。
 女は何もない空間を、じっと見つめて立っていた。
 関わりはごめんだと急いで通り過ぎようとしたが、女は気付いて私の方を向いた。
「幽霊じゃないです。幽霊を呼ぼうとしているんです。こういうのなんて言ったっけ。霊媒師?」
 わけのわからない女だ。
 無視して、その場を後にした。

 二日後。
 彼女が呼んだ幽霊を見た。
 それは、街灯の灯りの下、薄ぼんやりと桜色に煙っていた。
 まさかと思って近づくと、あるのは工事用の白い囲い。
 その囲いに誰の仕業か満開の桜が描かれていた。

 去年までここに大きな桜の木があったことを、私はようやく思い出した。
 
 絵はすぐに消されたが、あれから春になると失われたはずの場所に満開の桜が見えるようになった。
 
 もちろん、そこには何もない。
 薄ぼんやりと街灯の灯があるだけだ。
 
ファンタジー
公開:23/04/03 23:23
更新:23/04/13 18:29

堀真潮

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