死出の山

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 えっほ、えっほ。
 僕はきつい勾配を登りながら、ひたすらそれを口にしていた。口にしていなければ辛くて苦しくて、心が壊れてしまいそうだからだ。
 えっほ、えっほ。
 この有名な掛け声は、駕籠(江戸時代に利用された人力で人を運ぶ乗り物だ)を運ぶ時などに使われていたらしい。ネットでそう書かれた解説を読んだ事があるだけだから、真実かどうかは知らないが。
 とにもかくにも、死んでしまってからもこんな風に辛い思いをしなければならないなんて。
「こんな事なら自殺なんてしなければよかった」
 素直に今の気持ちを口にしたら涙が出た。
 病気になってから、どんどん身体や心が弱っていった。それが怖かった。
 生きているの苦しかった。死んでしまえば楽になれると思った。だから樹海に行って首を吊って、すべてを終わらせた筈だったのに。
「死んだ後も苦しいなんて詐欺じゃないか」
 この場合、詐欺師は誰になるのだろうか。
その他
公開:23/03/31 21:09
更新:23/04/26 09:38

笹椰かな

アイコンは左藤サトウ様が制作した物をお借りしています。

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