開通式

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友人が掘ったトンネルの開通式に呼ばれ、10年ぶりに故郷の浜へ帰って来た。
公園の砂場時代から続く奴のライフワークだ。ガウディのごとく終生掘る気かと思ったが、何らかの転機があったらしい。

「ほら、こっちこっち!」
挨拶もそっちのけに急かす友人の、日に焼けた手も得意満面の顔も砂まみれだ。
砂山に掘ったトンネルの両側から手を入れ、真ん中で握手と見せかけ引っ張り倒す。自分から仕掛けておいて、毎回トンネルと一緒に崩れるのも奴だった。
背丈の分だけ幅を増したトンネル。ぎりぎり届いた手が触れた瞬間、グッと引き込まれ、常勝記録に初めて砂がついた。

「ようこそ、俺らの城へ」
眼下に広がる海と浜。無数のトンネルが入り組む巨大な砂城のてっぺんで、やっぱり砂まみれの奴が笑う。
――そうだ、私が頼んだのだ。トンネルが精一杯の子供にお城を作ってと。
「おかえり」
足元の砂場には、小さなトンネルハウスが建っていた。
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公開:23/03/31 20:08
プチコン

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞

いつも本当にありがとうございます!

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