桜電車と魔法使い

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改札口で子供が祖父母と別れるのを惜しんで泣いている。
「フユちゃん、お待たせ」
「え?」
小柄なおばあさんが私の手に切符を握らせた。
「ほら、行きますよ」
「えっ、どこに?」
「おばあちゃんの家に決まってるでしょう」
「え、あの」
どこか懐かしい笑顔に、「乗るだけなら」と答えていた。
車窓からの景色に「ちょっと早いけど気分が良いから」と、おばあさんがウインクすると、線路沿いの桜が一斉に咲いた。
「おまけよ」
私の手をぎゅっと握る。
「開けてみて」
手のひらに桜の花びらが溢れた。おばあさんは魔法使いなのかもしれない。
「フユちゃん、幸せになるのよ」
「あの、私」
 女性がそっと近づいて来て隣に座った。
「どうか、そのままで」
 おばあさんにどこか似た女性だ。
「祖母はマジシャンだったの」
電車は桜のアーチを通り抜ける。
「フユちゃん、いい日ね」
 魔法使いは満足そうに微笑んだ。
青春
公開:23/03/31 19:50
更新:23/03/31 20:08
プチコン 電車 マジシャン 魔法使い

射谷 友里

射谷 友里(いてや ゆり)と申します
十年以上前に赤川仁洋さん運営のWeb総合文芸誌「文華」に同名で投稿していました。もう一度小説を書くことに挑戦したくなりこちらで修行中です。感想頂けると嬉しいです。宜しくお願いします。

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