トースターの海

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出社前に朝ごはんの食パンを用意すると、パンに青い海が広がっていた。

「青タビが生えてる」

タビは人の記憶だ。夏休みが始まり、世間はタビで溢れていた。

ちゃぷん

海水浴の記憶だろう。青タビの上で波が揺れ、指を入れるとひんやりとして気持ちいい。

「青タビなら」

ふと、あることを思いつき、食パンをトースターにいれ、タイマーダイヤルを回した。キリキリとゼンマイが戻り始めると、中のヒーターが熱を帯び、夕陽のように輝き出す。海は茜色に染まっていく。

チン!

ゼンマイが戻り切ると、ヒーターも静かに消えてゆき、トースターの中に夜が落ちた。

食パンを取り出すと、青タビはすっかり黒タビになっており、波音は心なしか先ほどより静かだ。

用意した爪楊枝に糸と餌を付け、海に垂らした。今日はミニ夜釣りだ。

おっとそうだ。

「すいません、今日は休みます」

上司の応答を待たず、私は電話を切った。
その他
公開:23/03/31 19:47
更新:23/03/31 20:37

イチフジ( 地球 )

マイペースに書いてきます。
感想いただけると嬉しいです。

100 サクラ

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