減衰
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友は旅は波だと云つた。
旅のはじめの窓外に祖を置いて列車は走りだす。
列車は幾筋も川をわたり陽炎を拔け、岸から岸へ、驛から驛へ童を捨ててゆく。
私の旅をだれも知らない。
貎よ鳥を除いては。
やがて懷かしい異鄕に降りたつ。
宿に夜櫻をたづね、出湯に浸かり夢寐によぶこ鳥を聽く。
蜃氣樓のうしろ姿に鍵穴を失ひ、眼を覺ますと足のうらに藏書印が捺されてゐた。
宿を出て町を逸れひと知れない花野へ辿りつくと友の匂ひに滿ちてゐた。
おとがひを杯に月のおぼろを愛で、瘦せた身體、その文字のくぼみをなぞる。
一篇の詩をいくたびも讀むやうに。
私の返した心臟をくはえ驅けまはるとやがてゆつくりと溶けてゆく。
溶けのこつた骨の一片を持つて岸邊に立つ。
その骨で文を書くとそのそばから波が消してゆく。
消してくれる。
旅のはじめの窓外に祖を置いて列車は走りだす。
列車は幾筋も川をわたり陽炎を拔け、岸から岸へ、驛から驛へ童を捨ててゆく。
私の旅をだれも知らない。
貎よ鳥を除いては。
やがて懷かしい異鄕に降りたつ。
宿に夜櫻をたづね、出湯に浸かり夢寐によぶこ鳥を聽く。
蜃氣樓のうしろ姿に鍵穴を失ひ、眼を覺ますと足のうらに藏書印が捺されてゐた。
宿を出て町を逸れひと知れない花野へ辿りつくと友の匂ひに滿ちてゐた。
おとがひを杯に月のおぼろを愛で、瘦せた身體、その文字のくぼみをなぞる。
一篇の詩をいくたびも讀むやうに。
私の返した心臟をくはえ驅けまはるとやがてゆつくりと溶けてゆく。
溶けのこつた骨の一片を持つて岸邊に立つ。
その骨で文を書くとそのそばから波が消してゆく。
消してくれる。
ファンタジー
公開:23/03/31 16:10
1978~。西成郡勝間村の人。単家、布衣の人。短時間労働者。即興演奏者。
俳句雑誌『奎』同人。
2022年イグBFC3優勝(同着)
https://twitter.com/ConchHailuo
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