お帰りなさい

　お母さんは旅に出ちゃったんだよ。
　どこへ？
　遠い遠い場所だよ。
　日本じゃない所？
　そうだね。

　まだ四歳だった私は、父の言葉を疑う事もしなかった。だからお母さんは、私と父を置き去りにして旅行に行ってしまったのだと本気で信じていた。
　小学校の四年生になってからは、家庭を捨てて好きな男と出奔したのだと思っていた。お盆の時に伯母がそう言っていたから。

　私が二十二歳になった日。庭にある大きな金木犀の根元から白い骨が見つかった。ウチの犬が地面を掘り返した時に出てきたらしい。
　それが四歳の時に別れたお母さんのものだとわかった時、既に父は他界していた。
　母を殺したのは父なのか？　そもそも母は殺されたのか？　母を埋めたのは父なのか？
　今、警察がそれらを調べてくれている。
　だからまだ何もはっきりとはしていないけれど、これだけは言える。
「お帰りなさい、お母さん。やっとまた会えたね」