旅する胃袋
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叔母は旅番組が大好きだった。
早朝でも深夜でも、紹介される場所が国内でも海外でも、旅番組ならなんでも、テレビに釘付けだった。
嬉しそうに画面を指さして、まるで自分が何度も足を運んできたかのように、この温泉はね、このアマゾンはね、この砂漠はね、と教えてくれた。
南国にある大きな市場の地図を、何も見ずに完璧に書いてくれたことさえある。
そして必ず、いつかお金が貯まったら一緒に行こうね、とくしゃくしゃに笑うのだ。
私がものを無くして落ち込んでいるときは、こう言ってくれた。
「えっちゃん、あれはもう旅に出たんだよ。新しいのを買ってあげるよ」
その叔母が病気になった。長い闘病の末、胃を失った。
術後の経過が悪く、起き上がれなくなった。
病院のベッドで、叔母は今日も小さなテレビに映る旅番組を見ている。
「見て。私の胃袋は、いまここを旅してるの」
ピラミッドを指さして、叔母は今日もくしゃくしゃに笑う。
早朝でも深夜でも、紹介される場所が国内でも海外でも、旅番組ならなんでも、テレビに釘付けだった。
嬉しそうに画面を指さして、まるで自分が何度も足を運んできたかのように、この温泉はね、このアマゾンはね、この砂漠はね、と教えてくれた。
南国にある大きな市場の地図を、何も見ずに完璧に書いてくれたことさえある。
そして必ず、いつかお金が貯まったら一緒に行こうね、とくしゃくしゃに笑うのだ。
私がものを無くして落ち込んでいるときは、こう言ってくれた。
「えっちゃん、あれはもう旅に出たんだよ。新しいのを買ってあげるよ」
その叔母が病気になった。長い闘病の末、胃を失った。
術後の経過が悪く、起き上がれなくなった。
病院のベッドで、叔母は今日も小さなテレビに映る旅番組を見ている。
「見て。私の胃袋は、いまここを旅してるの」
ピラミッドを指さして、叔母は今日もくしゃくしゃに笑う。
その他
公開:23/03/31 23:21
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