五能線物語

1
3

カタンカタンと小刻みな揺れが心地良く、転寝。
ほのかに感じる磯の匂い。ここは海岸沿いを走る電車だ。車内に響く、賑やかな話し声。卒業間近の学生が新生活の不安と期待を面白おかしく話しをしている。
訪ねた土地の日常と、私の非日常な時間が流れる。
私がこのゆったりとした時間軸を堪能している傍らで、仲間の絵描きが車窓からの景色を描いていた。
「いい絵が描けたかい?」
私の問いかけを待っていたかのように、ほらっとスケッチブックを私に見せた。
「力強いタッチだが、白地が多くて山水画みたいだな」
「この海は冬の厳しさを時折垣間見せるんだよ」
「なるほどね、そんな景色なのか」
私の感想を聞いた絵描きは『また、あとで』と手を上げ、いつものように消えた。

次は〜、千畳敷駅〜

私はアナウンスを聞き、立ち上がる。
「私も降りるのでご一緒に」
私の白杖に気づいたご婦人が声をかけてくれた。

私と絵描きの旅は続く。
その他
公開:23/03/31 22:30
更新:23/03/31 22:57
#旅

さささ ゆゆ( 東京 )

最近生業が忙しく、庭の手入れが疎かな庭師の庭でございます。

「これはいかんっ!!」と突然来ては草刈りをガツガツとし、バンバン種を撒きます。

なので庭は、愉快も怖いも不思議もごちゃごちゃ。

でもね、よく読むと同じ花だってわかりますよ。


Twitter:さささ ゆゆ@sa3_yu2





 

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容