トラベリウムの午後

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トラベリウム用の観光植物を買いに花屋へ来た。
ガラスのトランクに箱庭を作り、旅の風景を詰め込む植栽アートだ。ネットで見付けたこの店は種類の多さと再現度の高さに定評がある、完全予約制の人気店だった。

「お待ちしておりました。どうぞ中へ」
店員さんが笑顔でガラスの温室を開く。
「……すごい。トラベリウムの街ね」
百近くもあるだろうか。温室の壁から床、天井までトラベリウムが陳列され、ガリバー旅行記の様な景観を演出していた。それぞれ独立の風景でありながら、全体が一つの街にも見える奇妙な調和。さらに驚いた事には、
「中の人が動いた!可動式のトラベリウムなんて初めて」
「本物より本物らしいでしょう?選りすぐりの生体フィギュアです。植物も建物も動物も、もちろん人物もね」

後ろで鍵のかかる音がした。
温室がぐらりと揺れ、箱型の屋根から声が降ってくる。
「お待たせいたしました。こちらがご注文の新作です」
ファンタジー
公開:23/03/28 21:11
プチコン 着想:ガリバー旅行記

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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