たびだま屋

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見つけた。毎年各地の盆踊りの屋台を巡ってやっと出会えた。
水槽の中に透き通った玉がいくつも浮かんでいた。中に景色が見える。
「たびだま、くださいな」
屋台の男が興味深い顔で私を見る。
「一個であんたの一年と交換だ。一年あるかね?」
毎年盆踊りの屋台に現れる神出鬼没の「旅魂屋」。亡くなった人の魂がお盆に帰ってくるように、失われた景色もこの世に帰ってくる。その景色を旅できるのが旅魂屋なのだ。
「お目当てのたびだまはあるのかい?」
私は黙って指を指す。
男は納得したように頷くと、旅魂を網ですくい、私の皺だらけの手の平に乗せた。男が息を吹きかけると旅魂はシャボン玉のようにパシャンと割れた。
その瞬間、盆踊り会場は消え、目の前に海が広がっていた。あの頃の家に向かう。通学路、肉屋のコロッケ、小さな公園、持ち出せなかった宝物、少し湿って温かい母さんの手。
「最後の旅だ。まけとくよ」
遠くで男の声がした。
公開:23/03/31 10:34
更新:23/03/31 12:07

むう( 地獄 )

人間界で書いたり読んだりしてる骸骨。白むうと黒むうがいます。読書、音楽、舞台、昆虫が好き。松尾スズキと大人計画を愛する。ショートショートマガジン『ベリショーズ 』編集。そるとばたあ@ことば遊びのマネージャー。

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