旅立ちの朝

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「起きなさい、勇者。朝ですよ」
母親の声がする。窓からは柔らかな光。洗いたてのシャツのような風。朝が僕に目覚めを誘う。
起きなければならない。世界が僕を急かしてる。
わかってる、けど。
布団から出たくない。1日のとっぱじめからクライマックスで、ハードルが高すぎる。この温もりと肌触りからの卒業は何度繰り返しても慣れず、辛い。何より寒い。空気が冷たい床が凍ってる。すでに世界は厳しく険しく僕に牙を向く。
「勇者、起きなさい」
うるさいよ、勇者じゃないよ。お伽話の決まり文句で僕を荒波に放り込もうとしないで。
「こら!勇者!」
勇者じゃないよ。朝から悲しいよ。もう嫌だよ。
「目覚めのキスが必要のようね…」
強烈な気配に背筋が凍り、掛け布団を蹴り上げて部屋の窓に駆け寄り、そのまま脱出した。
「世界を股にかけておいで、私の勇者…」
後に救世主と呼ばれる男の、旅立ちの朝である。
─☆着の身着のままの大冒険
公開:23/03/31 09:26
起きたくない

風月堂( 札幌 )

400文字の面白さに惹かれて始めました!
文字や詩のようなものを書くのが趣味です。
情緒不安定気味でアゲサゲ落差のひどい人間ですw
いろんな方々の作品を読んで、心を豊かにしていきたいです。

無料の電子書籍をつくりました。
『ショートショート作品集カプセルホテル【】SPACE』
a.co/1VIyjHz

『枇杷の独り言』
ショートショートコンテスト『家族』最優秀賞頂きました。

写真は全て自前でやっています(笑)

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