奈良物語

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ダイニングテーブルに花が生けてある。
「誰かの命日か?」
「お父さん嫌ねぇ」
妻に怪訝な顔をされ、頭を掻いた手は次の日切符を持ち、奈良へ。
自然豊かな、古の都跡地。
規則的に並べられた礎石を眺めていると、礎石からグンっと柱が伸び立派な屋敷が現れ、冠を被った若い男が女官に和歌を詠み、一輪の花を渡した。
「万葉集はね、朝廷で詠まれた恋愛の歌を数多く収録されているんだよ」
若い男の声で我に帰ると、景色は元に戻り、仲睦まじいカップルが彼女に知識をご披露していた。
「さあ、次の場所もいいとこなんだよ!行こう!」
男はそう言うと、少し離れた場所に駐車してあるスポーツカーに彼女をエスコートした。
おや?俺が昔乗ってた車と一緒だな…通り過ぎる車の助手席を見ると、カチューシャをしたありし日の妻が微笑んでいた。

「お父さん、おかえりなさい。一人旅楽しかった?まあ!私の好きな花覚えていてくれていたの」
その他
公開:23/03/31 00:56
更新:23/03/31 00:59
#旅

さささ ゆゆ( 東京 )

最近生業が忙しく、庭の手入れが疎かな庭師の庭でございます。

「これはいかんっ!!」と突然来ては草刈りをガツガツとし、バンバン種を撒きます。

なので庭は、愉快も怖いも不思議もごちゃごちゃ。

でもね、よく読むと同じ花だってわかりますよ。


Twitter:さささ ゆゆ@sa3_yu2





 

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