行商人

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旅籠町に旅一番の吹いた頃、丁字路を天秤に担いだ行商人がやって来る。
「た~びぃ~、たび~いかんかね~」
独特のタビ声を朗々と響かせ、百景掘の端から端を練り歩く。

「ちょいと行商さん。桜の好いとこ見せとくれ」
「あいよ。そんなら隅田の千金桜が盛りでさぁ」
「ウチは富士のお山だ。湯場の壁絵にするんでね」
「へぇ、湯船に浮かぶ逆さ富士に、風呂桶のぞきの桶富士もございやす」
手ロケ片手に宿屋のおかみが列をなし、拝み柄杓で丁字路から好みの景色を拝借していく。貸本ならぬ貸し景色、地口で『シャッケイ掘』なぞと言われる所以だ。

行商人がひと仕事終えた後、遊刻の百景掘はまさに百ヶ所繚乱、日本全国津々浦々の見本市。この丁魔境(ていまぱあく)観たさに方々から宿泊客が押し寄せる。
「たび~うらんかね~、た~びぃ~」
さてここからが書き入れ時。稼いだ銭で金色に染まる丁字路を担ぎ、行商人は客の旅景色を買いに行く。
ファンタジー
公開:23/03/27 21:15
プチコン

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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