タイムスリップ銭湯

祖母の住んでいた町には昭和感溢れる銭湯が今も残っている。
私はこの場所が好きだ。家に風呂があるとはいえ、足を延ばせる湯舟は最高だ。
シャンプーや石鹸の貸し借り、初対面でも気軽な会話が生まれる裸の付き合い。人と人との繋がりを強く感じる。
「おや、また来たのかい？アンタも物好きだねぇ」
私と同い年の祖母が辟易した様子で言った。その隣には６０年前の幼い私がいる。
「今日はどんな悩み事だい？」
悩み事なんてない。ただ、祖母とこうして一緒の湯船に浸かりたかっただけだ。
「本当に物好きだね。まあ、それが歳を取るって事さ。アンタがいい歳をとってくれて、あたしゃ嬉しいよ」
祖母と肩を並べ、ふぅ…と息を吐く。
昭和感溢れるこの場所は人と人とを繋げてくれる。昭和を起点に現在過去未来関係なく人を繋げる。
だからこそ一番に溢れるのは再会からくる涙かもしれない。
それを風呂上がりに牛乳と一緒に飲み干すのが乙である。