要冷蔵読書

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新刊を通り過ぎ冷蔵ケースで足を止める。『生鮮本』コーナーが店の売りだ。生鮮本とは読了まで時間がかかり放置される不憫な本を救済し、読書サイクルをあげ業界の底上げを狙った試みとして開発された。
ずらり並ぶキンキンに冷えた中から1冊を選ぶとレジで持ち帰り時間を聞かれ、1時間と答えると保冷剤を同封された。
「冷蔵庫で保管し、ぜひ新鮮な内にお読みください」
鮮度が落ちるとどうなるのかを問うと「食品とは違い腐る事はありませんが内容が発酵します」と店員は言った。
ところが帰り道、友人とバッタリ会いそのまま飲みに行く事になり1時間どころか午前様となった。
それが1ヶ月前。忘れて常温放置してしまったその時の生鮮本のページをめくる。
登場人物のセリフ、設定や話の展開に至る全てがキザでとても臭かった。勿体ないので仕方なく読み進めると後半、意外とクセになってきた。
後日、新たに『発酵本』コーナーが新設された。
SF
公開:23/03/27 16:12

吉田図工( 日本 )

まずは自分が楽しむこと。

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