偶然の俺

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朝、起きて顔を洗ってヒゲを剃る。鏡をまじまじと見る。俺、後藤貴男、二十八歳、フリーター。何の特徴もない顔。二週間前からこの俺。その前は秋月達彦、六十歳、定年を控えた冴えない初老のサラリーマン。その前は安本美和、主婦。年齢は四十歳くらい。美人でタワーマンションに住んでいた。その前は、たしか三木芳枝、七十二歳。その前は角田宏、十五歳。その前は、うう、もう覚えていない。秋月達彦のときには十人くらいの前人格を覚えていたのだが。安本美和ではもっと覚えていた。
ある朝、目が覚めると全く違う人格になっていて、しかしその新しい人格で何の問題もなく周囲の人と生活も違和感なくやっていける。同じように後藤貴男の人格が変わっても平々凡々と暮らし続けることだろう。
前の人格は徐々に記憶が薄くなる。やがて前人格はすっかり記憶が抜けて、生まれた時からのようにその人格で生活するのだろう。周囲にはそんな人間ばかりだから。
その他
公開:23/03/27 09:10

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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