路霊来

路霊来（ろれいらい）に会った事がある。
俗に道魔とも呼ばれる、ライン川の水妖ローレライの親戚だ。四つ辻や横断歩道に現れ、大きな袖を振りながら笛に似た声で歌う。怖い妖怪ではなく、道路の横断が苦手な子供やお年寄り、道に不慣れな旅人の道案内をしてくれる、学童擁護員の様な存在だ。

部活で遅くなった放課後、点滅信号の横断歩道を渡ろうとして、笛の音に通せんぼされた。
見上げると、のっぽのおばさんが怖い顔でにらみつけていた。
大丈夫、路霊来は良い妖怪だ。言い聞かせながら足がすくんで動かなかった。靴底から歩道にじわじわ沈んでいく。
「ごめんなさい！」
大声で謝った瞬間、横道からトラックが突っ込んできた。そのまま横断歩道の白線を踏んだトラックは、歩道の真ん中でぶくぶく沈み、急流に飲まれた様に見えなくなった。

気付いた時には、路霊来も姿を消していた。
路霊来は、子供を事故で失った母親の化身だと後に知った。