SAYONARA-NOSTALGIA

校舎裏にある森の中に池がある。
夏のキャンプから戻った僕達はその畔に集合した。
目的は、男子の血だけを吸うという蚊に刺され痒くなった所を搔く事。そうすれば、旅先での恥ずかしい思い出を捨て去る事が出来るのだ。
これが本当の、旅の恥は"掻き”捨てだ。
何故そんな特性があるのか？
以前自由研究の為同じクラスの女子と、池に湧いたボウフラを捕って育ててみたが結局何もわからなかった。
多分、ずっとわからないままだ。

今回の帰郷は娘との親子旅となった。
「池で一緒にボート漕いだ人？告白は？」
「キャンプでしたけど、蚊の鳴くような声しか出なかった」
そんな思い出話をしてると、一匹の蚊がプーンと音を立て飛んできた。
すぐに行ったが雌だろうか。産卵の為池に下りたのか。
「だから振られたの？」
「うーん」
捨て去った思い出は帰らない。ずっとわからないままだ。
でも今年の夏も、あの畔に男子が並ぶのだろう、多分。