結末炎

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片目に結膜炎のようなものができた。
不思議に痛みや痒み、眼がゴロゴロするような違和感などはなかったが、それ以上に厄介なことがあった。
通りを歩くと見るひと、見るひとの最期の光景が見えてしまうのだ。それは、人間だけではなく犬や猫などあらゆる生き物、さらに建築物のような人工的なものも同様だ。
眼科でも結膜炎と診断されるだけで、目薬をもらってもその現象は一向になくならない。私は、いつしかその症状を「結末炎」と呼ぶようになった。
私は、おぞましい光景を見ることが怖くなって、結末炎になった目に眼帯をすることにした。すると、結末炎の目で見ることをやめたことが功を奏したのか、通常の光景が見えるだけだ。
それからある日、眼帯をとると結末炎も治っていた。
ただ、いま後悔していることがひとつある。
怖いもの見たさで、結末炎の目で鏡に写った自分の姿を見てしまったのだ。あの最期の光景がいつ訪れるのかはわからない。
ホラー
公開:23/03/25 07:26
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SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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