渡と行虫
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子どもの頃、毎年夏休みになると、空には渡(わたる)の大群が飛んでいた。
夏の日差しの様にキラキラ光る虫で、羽音は風鈴そのものだった。渡が通り過ぎた後は、スイカとかき氷と海の匂いがした。待ちわびた家族旅行が中止になった夏も、目を閉じて深呼吸すれば、渡が旅を運んできてくれた。
冬休みには、木枯らしに乗って行虫(ゆきむし)が行列を作った。
イルミネーションの様にチカチカまたたいて、木や建物に止まれば街中がクリスマスになった。ジングルベルを振りまいて行虫が行ってしまうと、雪と氷と毛糸のマフラーの匂いがした。頬をくすぐる綿羽は母の手のひらに温度が似ていた。
大人になって働き始め、休みが短くなるにしたがって、渡も行虫もめっきり訪れが遠のいた。
淋しくもあるけれど、代わりに得たものもある。
「パパ、こっちこっち!」
日曜の昼下がり。指さしてはしゃぐ麦わら帽子に道案内を任せ、束の間の小旅行に出る幸せ。
夏の日差しの様にキラキラ光る虫で、羽音は風鈴そのものだった。渡が通り過ぎた後は、スイカとかき氷と海の匂いがした。待ちわびた家族旅行が中止になった夏も、目を閉じて深呼吸すれば、渡が旅を運んできてくれた。
冬休みには、木枯らしに乗って行虫(ゆきむし)が行列を作った。
イルミネーションの様にチカチカまたたいて、木や建物に止まれば街中がクリスマスになった。ジングルベルを振りまいて行虫が行ってしまうと、雪と氷と毛糸のマフラーの匂いがした。頬をくすぐる綿羽は母の手のひらに温度が似ていた。
大人になって働き始め、休みが短くなるにしたがって、渡も行虫もめっきり訪れが遠のいた。
淋しくもあるけれど、代わりに得たものもある。
「パパ、こっちこっち!」
日曜の昼下がり。指さしてはしゃぐ麦わら帽子に道案内を任せ、束の間の小旅行に出る幸せ。
その他
公開:23/03/20 19:40
プチコン
旅
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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