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切り株の町を旅するのが好きだ。
伐り倒された株のささくれに影が差すと、そこは尖塔ひしめく町になる。樹の香りに包まれながら、二本の指で砂紋に似た年輪を廻る。外から内へ、この樹の生きた時間を輪に沿って遡る。
季節ごとに吹く風の音。伝い落ちる雨雪と幹の中を上る樹液の音。鳥の声、虫や動物の声、土に芽吹いた種の声。年輪は樹が記憶する音のレコードだ。梢から根の先まで、成長と共に聞いてきたたくさんの音が、曲になって切り株の断面に眠っている。
レコードに針を落とす様に、指が触れたところから曲が広がっていく。春の曲。夏の曲。秋の曲。冬の曲。倒されるところから始まるのは少し切ないけれど、どっしりと重い音がだんだん軽く優しくなって、ささやきほどの産声に還るまでの長い道のりを、一緒に旅する時間が好きだ。
二本の指で年輪を奏でながら、樹の歩いた百年を聴く。
ささくれをかすめた風が、懐かしいノイズを運んでくる。
伐り倒された株のささくれに影が差すと、そこは尖塔ひしめく町になる。樹の香りに包まれながら、二本の指で砂紋に似た年輪を廻る。外から内へ、この樹の生きた時間を輪に沿って遡る。
季節ごとに吹く風の音。伝い落ちる雨雪と幹の中を上る樹液の音。鳥の声、虫や動物の声、土に芽吹いた種の声。年輪は樹が記憶する音のレコードだ。梢から根の先まで、成長と共に聞いてきたたくさんの音が、曲になって切り株の断面に眠っている。
レコードに針を落とす様に、指が触れたところから曲が広がっていく。春の曲。夏の曲。秋の曲。冬の曲。倒されるところから始まるのは少し切ないけれど、どっしりと重い音がだんだん軽く優しくなって、ささやきほどの産声に還るまでの長い道のりを、一緒に旅する時間が好きだ。
二本の指で年輪を奏でながら、樹の歩いた百年を聴く。
ささくれをかすめた風が、懐かしいノイズを運んでくる。
その他
公開:23/03/22 20:57
プチコン
旅
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
https://amzn.to/32W8iRO
ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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