路傍の石影

0
4

『旅に出ます、探して下さい』
離縁状ならぬ離脱状を置いて、連れ合いが出て行った。

三行半どころか半行だが、『追って来て下さい』と書かぬ辺りが全くあの女だ。離脱状の裏は写真で、小雪舞う石畳が映っていた。
確か、初詣の神社の参道。思い当たったそばから景色が変わる。
花見街道の道祖神。青波埠頭の岸壁。紅葉山の苔石に薄氷線のホームの石段。いちいち判る自分も憎い。花鳥風月を愛でず足元ばかり見下ろす癖がつくづくあの女だ。
道端の地蔵。石灯籠に墓石。公園の飛び石や散歩道の縁石。変わるごとに低く近くなった景色は、出会った日の互いの足先で終わった。

自由を愛する女と安定を求める私、そもそもの立場が違い過ぎる。いやそれ以前に、私は基本が座して待つ身。
どのみち居所は知れている。千年ばかり放っておけば、松明を掲げてひょっこり帰って来るだろう。
崩した足を結跏趺坐(けっかふざ)に組み直し、大仏殿で目を瞑った。
恋愛
公開:23/03/21 19:23
プチコン 世紀のビッグカップル……? ※両方石ではなく銅像ですが

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
https://amzn.to/32W8iRO

ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容