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バスの窓から青い海が見える。
『人生の目的を知る旅』
そんな言葉に誘われてツアーに参加した。誰からも必要とされず浮かばない人生。生きる目的がわからなかった。他のツアー参加者も暗い顔をしている。皆、同じ想いなのだろう。
通路を隔てて座っていた女性が、「隣に座っても良いですか」と言ってきた。海が見たい、と言う。それならと席を譲ると、女性は子供のように喜んだ。この娘も辛い日常を生きているのだろう。人に喜ばれる久しぶりの感覚。些細な満足感。それが幸せに思えた。旅はいい。
バスは少しスピードを上げた。前方を見ると岬の先端が異様な近づき方だ。
「ツアーの見どころにまいります」
ガイドが笑う。
「人生は死への旅路。人はその時に目的を知るのです」
浮遊し、落下する感覚。走馬灯の中、思い出すのは些細なことばかり。
そういうことかーー。
そして先ほどの女性の笑顔を最後に、僕の目は深い青で満たされていった。
ファンタジー
公開:23/03/19 09:50

十六夜博士

ショートショートを中心に、色々投稿しています。
よろしくお願いします。

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