カプセルトイ

私は父親を知らない。母親と二人で暮らしてる。
女手一つで私を育ててくれる母。仕事が忙しく、一緒にいられる時間は少ない。
私は母に向けて空のカプセルトイに言葉を詰める。
『いつもありがとう』『お仕事ご苦労様』
カプセルトイは私の言葉をしっかりと内包してくれる。母がそれを開けた時、声と一緒に私の気持ちも一緒に伝えてくれる。
本当は『もっと一緒にいたい』や『今度の休みどこかに出かけない？』と伝えたい。
そんな言葉をカプセルに詰め込んでは、母の負担になりたくないからとそっと隠し続けた。
ある日、そのカプセルが母に見つかった。
母は私にカプセルを差し出す。私は恐る恐るそれを開けた。
『今度の休みどこかに出かけない？』
私の声で吹き込んだものなのに、聞こえてきたの母の声だった。
「それ、私に渡したかったんでしょ？私のものになったからにはその声も、その感情も私のものよ。お母さんも、貴方と同じ気持ちなの」