生涯学校

ここは生涯学校。生徒は老若男女、年配がやや目につく。生徒はずっと昔から教室にいるような気もするし、最近学び始めたような気もする。生徒になる前の記憶は甚だ曖昧である。
生徒たちが学ぶ目的は忘却。入学するまでに習い覚えたことを忘れ去ること。忘却は記憶をなくすことではない。それは覚えた意味をひとつひとつ忘れること。
教科は言語、数学、自然科学、人文科学、経済学、哲学など。授業では頭にこびりついている意味を薄めて相殺する。例えばアフリカのタンガタンガ語などを習うとうろ覚えの英語などすっかり忘れる。上級になればなるほど入学以前のことを忘れる。入学の動機も忘れる。
卒業式は不定期に個人別に執り行われる。本人にも知らされないある日、急に呼び出されて校門のところに行くと厳かな音楽が鳴っている。「本日貴方は業を終えました」と声がして門を出ると眩い光の中を歩きだす。こうして生徒たちは一人一人旅立つのである。