影消し

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儂がまだ幼い子供のころ、影踏みという遊びをしていたときの出来事じゃ。
影踏みは、ジャンケンに負けて鬼になった子供が、それ以外の仲間の影法師を踏むと、踏まれた子供が次の鬼になるという遊びじゃ。
寺の境内で秋の夕暮れに長く伸びる影法師をよく踏んだものじゃが、大人から「日が暮れてからは絶対やるな!」と言われておった。
ある秋の夕暮れ。夢中になって影踏みをしていたら日没になってしまい、いつしか月の明るい夜になってしまったんじゃ。その最後に影法師を踏まれて鬼になった子供が翌朝、忽然と姿を消したんじゃ。神隠しにあったように。
ただ、その子供が影踏みをして帰宅すると、両親が我が子の影が薄いように感じたそうじゃが、そのときは気にしなかった。
結局いくら探しても、その子供は見つからず、怖くなった儂らは影踏みをして遊ぶこともなくなった。
それ以降、この辺りでは影踏みのことを「影消し」と呼ぶようになったんじゃ。
ホラー
公開:22/09/23 07:00
子供 影踏み 影法師 夕暮れ 神隠し 影が薄い

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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