養老庁

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六十五歳以上の老人が全人口の過半数を占める国があった。
国政選挙で「老人の老人による老人のための政治」をスローガンに掲げて圧勝した政党が政権与党となり、新しい政府を樹立した。
政府は政権公約どおり、老人に支払うべきお金が尽きた赤字垂れ流しの公的年金庁を廃止し、社会保障政策を強化するための「養老庁」を新設した。
養老庁は、老人が安心して豊かに暮らせるために、あらゆる公的サービスを無償で提供することを担う役所であったが、実はそれを維持するための裏の顔があった。
養老庁所管の無料老人ホームである「養老院」がそれだ。養老庁の役人の間では「姥捨山」と呼ばれており、全国から身寄りのない老人ばかり集めて極秘裏に間引きしていたのだ。これによって、全人口に占める老人比率を徐々に下げていくことが、養老庁の真の目的だった。
それから数年後ーー。目的を達した養老庁は廃止され、国民皆年金を謳う公的年金庁が復活した。
ホラー
公開:22/09/17 06:53
老人 人口 国政選挙 政治 政党 政権与党 政府 政権公約 公的年金 社会保障

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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