回想バス

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妻に先立たれてしまった。自暴自棄になっていたときもあったが、そんな気力も失ってしまった。ふらりと列車に乗り、あてもなくさまよっていた。山奥の無人駅で降りて、駅前のベンチに座っていると回送バスがやってきた。目の前で停まると扉が開いた。おかしいな?と思いつつも導かれるようにバスに乗ってしまった。

バスの車窓から何気なく景色を眺めていると河原でバーベキューをしている学生達がいた。なんとなく学生時代の友人に似ているような気がした。しばらくすると湖でカヌーに乗っている家族がいて、犬が追いかけるように泳いでいた。そういえば、妻の希望で大きな犬を飼っていたなと在りし日を懐かしんだ。それから視線をバスの中に移すと行先表示が『回想』になっていた。

「お客さん、もうすぐ終点だけど降りるかい?車庫まで行ったら帰れなくなるよ」
「…」
「なんだい、眠ちまったのか」

バスは終点を通り過ぎた。
その他
公開:22/09/19 23:37
更新:22/09/19 23:54

ひろいてん

面白そうなので参加してみました。

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