役者の先輩の、為になる話

私が尊敬する役者の先輩は悪役が良く似合う。
内面からにじみ出る悪のオーラが見る人を虜にする。どうやったら先輩みたくなれるのだろう？
「そりゃ、色々な仕事を体験してみる事だな」
煙草をふかしながら答えてくれる先輩。そのちょい悪さがたまらなくワイルドだ。
「俺も若い頃、色んなバイトをやってみたものさ。合わなくてすぐに辞めてしまったものもあったが、その経験すら今に活かされている」
いわゆる下積み時代って奴か。先輩のデビューは確か４０過ぎ…長年の苦労が演技ににじみ出ているのだろう。
「下積み？苦労？違う違う。俺の場合、むしろ上澄み時代というべきだろう。鍋みたくごった煮の業界で浮いてきた灰汁（アク）を捨てず、自分のモノにしてきたからこそ今の俺があるんだ。アクのえぐみと渋みが、俺を灰かぶりなシンデレラボーイへと変えてくれたのさ」
先輩の人間臭い演技の秘訣は上澄みから取れた灰汁にあったのだと理解した。