しーっ、静かに

朔日餅を購入する為に僕は朝から店の前に並んでいる。
僕の前にはお婆さん。朔日餅購入の縁が結んだ、歳の離れた友人である。
今日もお婆さんとお喋りしているとガラの悪そうな男がお婆さんの前に横入りしてきた。
それに気付き、注意しようとすると男は僕を睨んでくる。
それでも勇気を振り絞って注意しようとしたらお婆さんがそっと僕を制した。
「いいのよ。また来月、買いにくればいいんだから。それに私が目を離したのがいけないのよ」
そんな事はない！誰もがそう思うが、男が怖くて誰もそれを言えない…
列を離れていくお婆さんを見て僕は悲しくなった。
男は素知らぬ顔でスマホをいじっている。余計に腹が立ってくる。
そんな男の頭上に何かが降りてきた。
その何かは僕の視線に気づくと「しーっ、静かに」と言って、横入りした男に近付く。
その何かは男から何かを抜き取ると「婆さんの魂じゃないけど、まあいいか…」と呟き去って行った。