月人

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月人を知っているかい。
秋風の 清(きよ)き夕(ゆふ)へに 天の川 舟漕ぎ渡る 月人壮士(つきひとをとこ)ーー秋風の清々しい夕べに、天の川を舟で漕ぎ渡る月下の勇壮な男。
このように古来から万葉集などの和歌で詠まれていて、月を擬人化して表す言葉として有名だけれど、実は、本当に月人は存在するんだ。
中秋の名月が見られる九月の十五夜に、月人は月面から光輝く牛車のような宇宙船に乗って地球にやってくる。平安時代に書かれた日本最古の物語『竹取物語』で、かぐや姫が月に向かった乗り物と同じ。昔の人たちは月人のことをよく知っている。
十五夜、月人は付き人のように地球人に寄り添いながらいるんだ。朧気に人間の形をしながら。そして十五夜が明けると、月人は幻のように地球を去っていく。
月人は、得たいの知れないものではない。ただずっと地球人を見守り続けている。それはまるで地球の周りを回る衛星である月と同じように。
ファンタジー
公開:22/09/10 07:02
秋風 天の川 万葉集 中秋の名月 十五夜 牛車 平安時代 『竹取物語』 かぐや姫 衛星

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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