ヒョウモントカゲモドキになったおじさん

四十路を過ぎ、彼はひとりで生きるのに疲れるようになった。仕事や遊びも昔ほど楽しくない。そろそろ結婚もいいかもしれない。そう思ってここ半年ばかり婚活に精を出したものの、マッチする人すべてに言えることが「めんどくさい」だった。もう人間はいいや。そう思って彼は生まれて初めてペットショップに足を運んだ。そこで、ヒョウモントカゲモドキが若い女性客から人気を集めていることを知った。確かにあのクリクリした瞳は母性本能をくすぐる気がする。思わず「自分もあんな風になってチヤホヤされてみたいもんだ」と口にしたところ、目の前の一匹がニヤリと笑った。

気がつくと彼はワンルームで飼われるヒョウモントカゲモドキになっていた。だが、真冬のある日、飼い主の女性はうっかり暖房をかけるのを忘れ、部屋を留守にした。数日後、冷たく干からびた状態で発見された個体には体温調整ができず、極寒の中でもがき苦しんだ形跡が残されていた。