気持ちが楽な王者と楽じゃない挑戦者

王者は何を考えているのだろうか。
常に観客達に話を出されて、今日はあの人が勝つと言われている王者は。
入場する為のゲートはまだライトが照らされておらず、観客達はまだかまだかと黒い一本道を見続ける。
控え室にてTVで王者の生い立ちなどが短めではあるが流される中で、挑戦者である自分の映像は一切流れない。
自分の横に置いてあるボクシンググローブを拾い上げ、自分を落ち着けるかのように一息吐く。
所詮観客やTVなどは同じ国であれば王者の勝ちしか望んでいない。…残酷な人達だ。
コーチに実力で黙らせてやれと声をかけられる中、自分は頷く。
拳を握りしめ、気持ちをさらに込める。王者はきっと気持ちが楽なんだろう。挑戦者とはいえ無名の選手が相手なんだから。
自分は勝たなきゃという気持ちがとんでもなく強い。楽には決してなれない。
10年無敗の王者と何とかここまで勝てた自分。勝ちたいという思いがただ充満していた。