思い出雇用

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今日は就職面接の日だ。スーツを着て企業へ向かう。
「あなたの一番の思い出を教えてくれますか?」
そんな質問をされたらどう答えればいいのか、と私は考えたが何も思い浮かばなかった。
「はい」と答えるには、私にとってその記憶はあまりに遠すぎる気がしたし、「いいえ」と答えれば嘘をつくことになる。では「ありません」と答えたいところだが、それはそれで面接官の心証が悪いだろう。結局、私の口から出てきた言葉はこうだった。
「……特にありません」
しかし、これだと面接に落ちそうだなと思った瞬間、脳裏に浮かんだのはやはりあの男の顔で――。
ああそうか、これが私にとっての『一番の思い出』なのだなと気が付いた。
この世に生を受け、今日まで生きてきたこと。それが私の人生の全てであり、たったひとつの思い出である。
「ならうちで思い出を作りませんか?」
私は意外にも採用された。そして後に知るのだ。思い出雇用の凄さを。
公開:22/09/06 10:21

富本アキユ( 日本 )

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・作詞を担当
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・葉月のりこ様YouTubeチャンネル『ショートショート朗読ボックス』~ショートショートガーデンより~の動画内で江頭楓様より『睡眠旅人』を朗読して頂きました。

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