波紋の精

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職場の人間関係に疲れた僕は、小さな池のほとりに来た。
水面に小石を投げて、自分の顔が波紋で歪むのを眺めていると、突然別の顔が現れた。
「私は波紋の精です。貴方は何か悩んでいるのですか」
僕は驚いたが、穏やかなその声に促され、悩み事を打ち明けた。すると何故か、スッと心が軽くなった。
それから、僕はたびたび池のほとりを訪れた。その度に、悩み事が嘘のように消えていくのだった。

ある日、僕はまた池のほとりに来た。
職場の同僚の女性との結婚が決まり、それを波紋の精に報告しようと思ったのだ。これまでのお礼と一緒に。
だが、小石を投げても、波紋の精は現れなかった。
その時、池の向こう岸でポチャンという音がした。
見ると、一人の少女が思いつめた表情で水面を見つめ、佇んでいた。
そして、少女の表情はみるみる驚きへと変わった。

僕は、池のほとりをあとにした。遠からず、あの少女が笑顔になる日が来るだろう。
ファンタジー
公開:22/09/03 11:22

和倉幸配

断続的にではありますが、趣味で細々とショートストーリーを書いています。

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