ハリネズミの独白

くあ～あ。
大きなあくびをして寝床からもぞもぞと這い出ると、「○○ちゃ～ん」と彼女がおやつを持ってくる。大した猫なで声だぜ。俺は唾を吐き捨てるように息を吐くと、ケージ越しにそれを受けとる。もくもくとかじっている俺にスマホを向ける彼女。それが終わると冷蔵庫から強炭酸を取り出して一気飲み。ったく、変わってねーな。強炭酸。

ハリネズミに生まれて早や一年。ようやく彼女の心を掴めたみたいだ。
俺が人間だった頃は、ストーカー扱いしてたくせに。

俺はもう一度息（唾）を吐き捨てる。俺はずっと彼女が好きだった。ずっと彼女だけを見てきた。昔も今も、ずーっと。

これからもよろしく、なんて言わないぜ。そろそろ終わりにしてやるよ。前は人間だったから、何が良くて悪いのかもちゃんと心得てる。安心しな。

アパートで女性の遺体が発見された。死因は不明。警察は、ケージの中のハリネズミには見向きもしなかった。