その日

2
1

その日、青年はワクチン接種を受けた。最初は副作用やら懸念もあったが、妙な流行り病へのちょっとした怖さと親が高齢なのもあり、受けることにした。
「あ~終わった」終わったらなんてことはない。我ながら勇者にでもなったつもりで、町を歩いた。すると、気分がだんだんと高揚してきて、青年は頭に巻いていた派手なバンダナを巻き直すと、その場に座り、持っていた軽めのギターをかき鳴らした。デタラメな音階が妙に心地よく、その音に惹き付けられて一人、また一人と立ち止まり…気がついたら人集りが。最初の心地よさのまま、演奏を終えると、割れんばかりの拍手に包まれた。青年は照れくさそうに会釈した。と、人の山からひとりの真面目そうなスーツ姿が歩み出てきて、「こういう者です」と名刺を渡した。そこには某音楽会社の名前があった。

その日から青年の運命は大きく変わった。

「あの日、ワクチンを受けていて本当に良かったなぁ。」
その他
公開:22/08/29 23:31

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容